三人の相馬大作
直木三十五

−−
【テキスト中に現れる記号について】

《》:ルビ
(例)早《は》や

|:ルビの付く文字列の始まりを特定する記号
(例)黒|縮緬《ちりめん》の

[#]:入力者注 主に外字の説明や、傍点の位置の指定
   (数字は、JIS X 0213の面区点番号、または底本のページと行数)
(例)※[#「言+墟のつくり」、第4水準2−88−74]《うそ》
−−

    一

「何うも早《は》や――いや早や、さて早や、おさて早や、早野勘平、早駕《はやかご》で、早や差しかかる御城口――」
 お終いの方は、義太夫節の口調になって、首を振りながら
「何うも、早や、奥州の食物の拙《まず》いのには参るて」
 赤湯へ入ろうとする街道筋であったが、人通りが少かった。侍は、こう独り言をいいながら
「早や、暮れかかる入相《いりあい》の」
 と、口吟《くちずさ》んで、もう一度、首を振ってみたが、村の入口に、人々の――旅の、客引女らしいのが立っているのを見ると、侍らしくなって歩き出した。
 少し、襟垢がついていて、旅疲れを思わせる着物であるが、平島羽二重《ひらしまはぶたえ》の濃紫紺、黒
次へ
全71ページ中1ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
直木 三十五 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング