行附と申しますと――え、何かお召捕用で?」
「ま、そんなところだの」
廊下に、足音が聞えると、障子が、開いて十二、三の女の子が、三人
おばあ子、来るかやあと
鎮守《つんず》の外んずれまで
出てみたば
と、叫んで、踊りながら、入ってきた。
「うるさい。もうええ」
客の一人が手を振った。
おばこ来もせで相馬の大作なんぞいかめ面《つら》。
「出てくれ」
と、一人が、一文銭を、抛出《ほうりだ》した。女の子は、次の部屋へ唄って行った。
「ほほう、相馬大作なんぞ、この辺で、唄になっているのかのう」
「ええ、えらい人気で、御座りましてな」
「何時時分に、何《ど》の辺に、おろうな、聞かんかの」
「一向に」
「わしは、その大作を追うているが――」
「貴下《あなた》様が――へえ、そいつは、うっかり、踏込めませんぜ。宿で、泊めないなんてことが御座いますからの」
「何故」
「いえ、大作様を、生神様のように思っている奴がおりましてな」
「なるほど」
「それで、あんな唄まで、出来ましたが、旦那様、うっかりなさらんように――」
「忝《かたじけ》ない」
侍は、腕組をした。
「何《ど》れ、もう、一風呂浴びてきて、寝ましょうかの」
一人が立上った。侍は、頷《うなず》いただけであった。
三
「遅う御座いますな」
「遅い」
二人の潜んでいる草叢《くさむら》の草は、二人の頭を隠すくらいに茂っていた。そして、その上には陽の光さえ、洩らさないような梢と、葉とが、おおいかぶさっていたし、二人の周囲には、そうした大木が、一杯に並んでいた。
二人の横には、木の株を枕にして、大砲が置かれていた。筒口は、下を向いていて、その筒口の見当には、街道が、白く走っていた。
(この一発が、天下の眠りを醒《さ》ますのだ。ただ、南部の為に、津軽を討つというのではない。一つは、その為だが、二つには、領民のために、三つには、武士道のために――奢《おご》っている天下の人心を醒まして、ここに、真個《ほんとう》の武士あることを知らせるのだ)
関良輔は、そう考えて
「吃驚《びっくり》しましょうな」
「ふむ」
と、大作は、答えて、火薬の油紙包を、掌の上で、いじっていた。
「供侍のみでなく、天下が――」
「さあ――」
「先生も、お喜びなされましょう」
大作は、答えなかった。良輔も、黙ってしまった。
街道には
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