ようよう八十点。この点数を、数学と、英語が、めちゃめちゃにするので、平均点が、六十五六、卒業の時、びりから八番は、当り前である。
五年になると、そろそろ次の学校を選ばなくてはならぬが、私は哲学者になるつもりでいた。
小説を書こうなどと考えたのは、早稲田へ入ってからで、文科へこそは入ったが、漠然と、文科へ入っただけで、小説など書く気は、少しもなかった。だから、哲学の本は、相当に読んだが、この五年生の時に刊行されたのが、姉崎正治博士の、ショウペンハウェル原著「意志と現識としての世界」というやつである。それまで、相当、難解の書も読んだが、判らないというのは殆ど無かったが、この「意志」は、何う引っ繰り返して見ても、殆ど判らない。
(これが判らんようでは哲学者になれんぞ)
と口惜しさ、心細さ、悲しさ――一冊だけこの本を借出して、図書館で、三日努力してみたが、判らぬものは判らない。今でも、この本は判らぬが、これは、余程哲学志願心をへこました。
(中学五年にもなって、こんなものが判らんようでは)
と、当時、少し、淋しくなったのを憶えている。父は
「商科か、法科か、医科がええ」
と、商科は金
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