出しに行ったり、弟を背負うて、母を連れずに行ったり――思春期前の少年だから、平気で
「この頭おくれ」
と、出汁にする鰻の頭を一皿買ったり、牛肉屋が顔馴染になったので
「味噌まけといてや」
と味噌を、余分に入れさせたり――そして、多分、私が弟を背負って、そうして、大抵毎日買って歩いているのが商人達に、記憶されたらしく、それから又、憐れまれたらしく――私等兄弟より外に十歳位で、そんな所へ、惣菜《そうざい》を買いに行く奴はいなかったらしく
「まけといたるで」
と、鰻屋が、八幡巻《やわたまき》を一本添えてくれた事があるし、牛肉屋が
「葱もおまけや」
と、添え物の葱を一つかみくれた事もあった。そして、そういう日は、私は得意で
「まけてくれよった」
と、自慢した。この惣菜買いは、それから後中学へ行っても続いていた。
所が、困った事に、鰻の頭や、葱のしっぽだけでは、大して手助けにならぬし、小僧を置くような資力はなく、私が、惣菜買いの上手を見込まれて、今度は、父と共に、古着の包を背負って、歩かなければならなくなった。
鑑札が、正面の柱にかかっていたが、それには「古物商」と書いてあった。古
前へ
次へ
全90ページ中16ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
直木 三十五 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング