「ごんべん」に「虚」、第4水準2−88−74、371−11]吐きが念を入れて流行《はや》って居たから「瀬川の仇討」など、当時の手紙一本位を証拠に信じる事は出来ない。
 従って、瀬川が仇討をしてから、再法庵へ移ったのも嘘であるし、和歌も勿論、後世の人の悪戯《いたずら》となってしまう。然し、悪戯にしても、中々味のある歌で、男を水、己れを月として、夜ごと夜ごとに枕を代えているが、悟ると月も水も汚れない――というよりも、私のつくり更《か》え、男は汚れても女は汚れぬと、男はこう悟るが、中々女の諦めきれぬのをよく諦悟《ていご》させた歌である。

     二

 そこで、※[#「※」は「ごんべん」に「虚」、第4水準2−88−74、372−2]としておいても、この話は有名なもので、秋篠《あきしの》の助太刀と共に遊女武勇伝として双璧とすべきものである。※[#「※」は「ごんべん」に「虚」、第4水準2−88−74、372−3]を※[#「※」は「ごんべん」に「虚」、第4水準2−88−74、372−3]としておいて書いて行っても興味――極めてお芝居的な興味の多い物語である。尤《もっと》も※[#「※」は「ごんべん」に「虚」、第4水準2−88−74、372−4]を吐くのに余り面白くないものはいけない。それにこの話は可成り狂言作者が手を加えているらしいから、従ってお芝居的な技巧が多すぎもする。興味が或は薄いかも知れぬ。興味の有無は読者にもよる。私はとにかく、書いてみる位の興味はもっている位にしておいて――。
「歌浦さん、一寸《ちょっと》」
 と、禿《かむろ》が呼んだから、妓《おんな》が膝に凭《もた》れていた客が、いやいや柱へ凭れ直した。歌浦が立って行くと、
「嫉《や》けるから」
 と、瀬川が笑っている。
「まあ」
 瀬川が襖を開けると、客は真赤な顔をしながら、浄瑠璃を語っていた。床柱へ凭れて赤い顔をしながら語っている浄瑠璃に余り上手なものは無い。瀬川は打懸《うちかけ》を引きながら入ってきたが、その客の前へきて、すらりと脱捨てると、右手に閃く匕首《あいくち》。
「敵」
 と云って肩日へぐさと突きさすと力を込めて斬下げた。
「あっ」
 と、締められたような声を出して、客が床の間へ倒れたとき、
「父の敵、源八」
 と叫びつつ又振上げた匕首の手を一人の他の客が握って、
「何をする、危い」
「離して、離し
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