で非常にすばしこい、黒い眼を持っていた。彼女は註文をきくために奥の室《しつ》へと彼についてきた。
彼の註文はいつも決まっていた。半|片《きれ》の菓子パンとコーヒーを貰いたいと彼は几帳面に言った。その女があちらへひきかえそうとすると彼はこう言い足した、「それからね、僕は君に結婚してもらいたいんだが」
そこの若い給仕女は急にかたくなって、「まあそんな御冗談をおっしゃってはいけませんワ」と言った。
紅髪《こうはつ》の青年は灰色の眼をあげて重いもよらぬまじめな眼光《まなざし》をした。
「全く本当に」と彼が言った。「これは重大なんだ。半片の菓子パンの様に重大なんですよ。菓子パンのように金子《きんす》もかかるし、不消化だし、それに損害を与えるしね」
若い女は黒い眼を男からはなさずに、しかし彼を一生懸命に鑑察してるように見えた。がやがて微笑《びしょう》の影のようなものが彼女の顔にうかんだ、そして彼女は椅子に腰を下ろした。「ねえ、君はこう考えないかね」アンガスは女のなんにも気にとめないような風をしてこう云った。
「こんな半片の菓子パンを食うなんてちと残酷じゃないだろうかね?これはふくれさせて一
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