建物に面して、砂利の散らばった半月形の街路の向側に、庭園というよりは嶮しい生垣もしくは土手といいたい一むらの籔地がある。その下にややはなれて外濠か何かのように、細長い運河のような水道が走っている。自動車は行く行く栗売男のただ一つの屋台店の前を過ぎた。そして行手の街路の涯に、アンガスはノソノソと歩いている巡査の薄墨色の姿を見た。寂しい郊外の山の手に、人間の姿といったらこの二つの姿だけだった。何だがこの二つの姿が物語の中の登場人物ででもあるかのように感じられた。
豆自動車は右側の建物へ弾丸のように飛びついて、弾丸のようにその持主を発射した。彼はすぐに金ピカの役服を着た丈の高い使丁と、シャツ一枚の背の低い門番とをつかまえて、誰かまたは何かが、彼の部屋へたずねて来ているものはないかと訊いた。誰も、訪ねては来ないという事がわかったのでスミスといささか面喰らったアンガスとは狼火《のろし》のように昇降機《エレベータ》へ飛乗って最上層へ到着した。
「ちょっとはいって下さい」とスミスは息もつかずに言った。「ウェルキンから来た手紙をお目にかけたいから。それからあなたは街角を曲って探偵さんを連れて来て下さるでしょうね」彼は壁にかくしてあるボタンを押した、扉《ドア》は自然に開いた。
室は奥行が長くて便利な控部屋で特色といっては、仕立屋の人形のように両側に列をつくって並んでいる半人的機械人形があった。仕立屋の人形のように彼等は首無しであった。そしてまた、仕立屋の人形のように彼等は肩のあたりに恰好のいい隆肉と胸部に鳩胸のような凸起をもっていた。そうした特色をのぞくと、彼等は、停車場にある人間大の自動機械と同じで、どうも人間らしくは見えない。彼等は盆を運ぶための、腕のような二つの大きな爪状のものを持っている。そして見別けをつけるために青豌豆色や朱色や黒色に塗られてある。その他の点では、どう見たって自動機械だけにしか見えないので、誰も二度ふりかえって見る者はない。現在この場合には、少なくとも、誰もそうするものはなかった。なぜなら、この二列の人形の中間に、奇妙なものが横わっているので、世界中のどんな機械でもこれほど興味をひくものはあるまいとさえ思われたほどだから。赤インキで乱暴に書いてある白紙の片《きれ》で、疾風のようなこの発明家が先刻|扉《ドア》が開かれるとほとんど同時に、それは引剥がしたもの
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