、その裏に、ある秘密な標徴を持っている、十字架のついている鎖があるという事が記されています。それは最も初期な教会の神秘から来ています。そしてセント・ペーターがローマに来る前アンテオクにおいて彼の大僧正の職についた事を表徴するように考えられます。とにかく、私はこのようなのが他にもう一つあると信じます。そしてそれは私のものです。私はそれの呪《のろい》についてのある話しを聞いています[#「います」は底本では「まゐす」]、が私はそれは気にかけていません。がしかし呪いがあってもなくても、真にある意味においてある陰謀があります。けれどもその陰謀はただ一人の男から成立ってるのです」
「一人の男から?」と師父ブラウンはほとんど機械的にくりかえした。
「私の知ってる限りでは、一人の狂人《きちがい》からです」スメエル教授は言った。「それは長い物語です。そしてある意味において馬鹿気《ばかげ》た事なのです」
彼は卓子《テーブル》掛の上に指でなおも建築学の図の様な模様をつけながら、再び吐息をして、それから話しを続けた。
「たぶん私はそれについての事の始めからあなたにお話しする方がいいと思います、事実においてあなたは私に取っては意味のないその物語においてある些細な点がおわかりになるでしょう。それはもう幾年も前に始まった事でして、私がクレートやギリシャの島々の古跡にある調査をしておった時なのです。私はそれを人手を借りずにやりました。ある時はそこの住民の粗野なそして仮の補助で、してまたある時は文字通りたった一人で。私が地下道の迷路を発見したのはかような事情のもとにでした。その道は最後に立派な廃物や、こわれた飾物《かざりもの》そしてバラバラになった宝石の積み重ねに通じたのです。それはある埋《うず》もれた祭壇の廃墟であろうと思いますが、そしてその中に私は奇妙な金の十字架を見つけたのです。私はそれをひっくり返してみました。そしてその裏に古《いにしえ》のキリスト信者の標徴であった所の、魚の形を見つけました。が形や模様が普通に見出されるものとはかなり異っていました。そしてそれは私には、もっと現実的に――あたかも図案家が単にありきたりの囲《かこい》あるいは後光でないように、しかしよく見ると真の魚であるように故意にしたものであるように見えました。それはむしろ粗野な野獣の一種のようにも見えました。
「なぜ私がこ
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