て、すぐ腹這いになった。そして、誰も見ていないのが判ると、そのまま四つ這で、周章てて、凹地《くぼち》の所まで走った。
勇は、後方に繋いであった馬の所へ行って、手綱を解いていた。丁度その時、谷干城《たにかんじょう》と、片岡健吉とが、先頭に刀を振って、走出してきた所であった。二三人の味方が、その方へ走っていた。勇は行こうかとも思ったが、何んだか馬鹿らしかった。というよりも撃たれたような気がした。
(今夜考えてみよう。俺は三十余年、剣術を稽古した。その俺より、百姓の鉄砲の方が効能がある。これは考え無くてはならぬ事だ)
勇は馬に乗った。そして真先に退却すると同時に、甲陽鎮撫隊は総崩れになって、吾勝ちに山を走り登りかけた。
竜作は、躓《つまず》いたり、滑ったりしながら、なるべく街道へ一直線に到着しようと、手を、頬を、笹にいばらに傷つけつつ、掻《か》き上った。
(江戸へ逃げて行って――何うにかなるだろう。何うにも成らなかったら、鉄砲にうたれてやらあ、切腹するよりも楽《らく》らしい。金千代は、楽そうな顔をして、死んでいやがった。然し、妙な得物だ。もう、武士は駄目になった)
眼を上げると、近藤
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