から借入れる外、方法がつかなかった、そして二人の貰った軍用金とて、少額なものであった。
「人気は悪いし――これで、負け戦《いくさ》になったら。今までさえ食え無いのが、何うなるだろう」
「そんな事を心配していたって――」
金千代は、そう云ったが、江戸へ入ると、幸運が、逃げてしまいそうにも思えた。旗本の相当の人で、蚊帳《かや》の無い人があった。鎧をもっている人は稀《まれ》だった。百石百両という相場で、旗本の株を町人に譲って、隠居する人が、多かった。それで、堪えきれ無くなって旗本から、将軍へ出した事があった。
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「質主と申者《もうすもの》御座候、武器、衣類、大小、道具等右質屋へ預り其値半減、或は三分の一の金高を貸渡、利分は高利にて請取候、武家にても極難儀にて金子才覚仕候ても、貸呉候者御座無候節は」
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という有様であった。そして、旗本はその中で、三味《しゃみ》、手踊を習っていた。
「甲府へ立籠《たてこも》って――」
という声がした。二人が、振向くと、近藤と、土方とであった。二人は、丁寧に、御叩頭をした。
「八王子には千人同心が、少くとも二小隊は集る。菜葉《なっぱ》服が二大隊、これも御味方しよう。甲府城には、加藤|駿河《するが》の手で、三千人、それに、旗本を加えて、五千人は立所に揃うであろう。これで、一戦しようで無いか」
「然し、京都での、新撰組の勢力とはちがうから、吾々の下へ集ってくるのが――」
「それは、相当の役所になって、公方《くぼう》の命令という事にしよう。もし、公方の命令で集らなかったら、それは是非もない事だ」
二人は、帆綱の上へ、腰かけて話していた。金千代が
「せめて、甲府でなりと、手痛く戦いたいですが、今の人数の中へ御加え下さいませんか」
近藤は、頷いた。水夫達は、一生懸命に働いていたが、敗兵達は甲板で、煙草を喫ったり、笑ったりしていた。
二
近藤勇は、若年寄格。土方歳三が、寄合席。隊の名は、甲陽鎮撫隊。隊士一同、悉く、小十人格という事になった。
岩田金千代も、鈴木竜作も、裏金の陣笠《じんがさ》をもらって、新らしく入ってきた隊土に、戦争の経験談を話した。
「火縄銃の外、御前なんか、鉄砲を知らんだろう。長州征伐の負けたのも、その為だ。舶来鉄砲には、第一に三つぼんど筒というのがある。それから
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