巧でなあ、えいかね、それでつまり、敵が二人いるのは一人しかいないより結句|幸《さいわい》だという事を発見しおったんじゃ」「どうもはっきりしませんなあ」とフランボーが答えた。
「いや、深く考えるから駄目じゃて。いいか極めて簡単なんじゃ、もっとも、ちと無邪気ではないがな。あのサレーダイン兄弟は揃も揃ってろくでなしなんじゃ。しかし公爵、すなわち兄の方が上の方へ[#「へ」は底本では「え」]上がる、ろくでなしなら、弟すなわち大尉は底の方へ沈むろくでなしなんじゃ」
「大尉は零落の揚句、乞食や強請者《ゆすりもの》のまねもした。そしてある日兄公爵をうまくとっちめた。これが、公爵にとっては運のつきだったんだ。平たく云えばスティーフンは文字通りに兄の頸に綱をかけたのじゃ、彼はどうかした拍子でシシリヤ事件の秘密をかぎ知った。ポウルが山中で老アーントネリを虐殺した顛末をお恐れながらと訴出ることの出来得る男となった。大尉はせしめた口笛金で十ヶ年も放埓の限りをつくして、最後に公爵のすばらしい財産もどうやら阿呆臭く見えるまでになった。
「けれども、公爵はこの吸血鬼のような弟の外に今一つの重荷をになわんければならなか
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