屋支度がととのっているのがたちまち彼等の眼をとらえた。食堂の食卓にはサレーダインの仇敵《かたき》が島をめざして一陣の突風のように来襲した時既に晩飯の用意が出来ていたのだ。そこで今晩飯が嵐の後の凪のように平和に食われつつあるのだ、家政婦のアンソニー夫人はむっとしたような面持で食卓《テーブル》の足のところにしゃがんでいる。ポウルは御家老様然として美味を食らいかつ美酒を飲みつつあるのだ。夢みるその碧眼はおどろな色をただよわし、面窶《おもやつ》れのした様は何とも名状しがたいほどだが、満悦の気色はつつみかねたと見えた。覚えずその様に腹に据えかねたと見えてフランボーは窓をガタガタガタ鳴らしながらこじあけた。そして義憤に燃えた頭を明るい部屋にスット差し込んで「オイオイ」と呶鳴った。
「なるほど君もつかれただろうから静養を要するのは無理がない。ただ主人が庭に殺されておろうという際に主人の物を横取りするとは実に怪しからんじゃないか?」
「吾輩は愉快なるべき長の生涯の間に莫大な財物を横取りされたんじゃ」怪しい老人はかっとしたように答えた。「この晩食は拙者が横取を免れた無けなしの財産の一つじゃ。フン、この晩
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