和な白ちゃけた、粗末なズボンといった形だ。こうした古式蒼然たる拵えの中からオリーブ色の顔だけが妙に若々しく素敵に真剣らしく、またそっと立っていた。
「エッ糞ッ」と公爵がいった。そして例の白帽を力いっぱいひっ攫《つか》みながら自分で玄関へ出て行って夕日に照りはえている庭の方へとドアーを開け放した。

        四

 この時までにその到来客と従者の一隊は舞台に出る小人数の兵隊のように芝生の上に整列していた。六人の漕手はボートを岸に乗上げさせて、橈《かい》を槍のように押立てながら怖ろしい顔をしてボートを守っていた。どれもこれも色黒く、ある者は耳飾りをつけているが、その中《うち》の一人は若者の前方斜めに直立して、何やら見た事のない大きな型の黒い箱を捧げている。
「おう足下《そくか》がサレーダインだなあ」と若者が云った。サレーダインは鼻であしらうようにもちろんそうだ。と答えた。若者の眼は無表情な、犬の目のような茶眼で、公爵のギロギロと輝く灰色の目とはおよそ反対な眼だ。しかし師父ブラウンは、この顔の型をどっかで見覚えがあるようだなと思ったのだが、憶出せないので腹立たしくなった。
「もし足下
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