て、同じようにいんぎんに坊さんの好みの哲学談に話しを合わせるという風であった。彼は釣についても、書物についても、なかなか知識を持っているように見えた。後者の方はすばらしい開発振りを見せもしなかったが、彼は五六ヶ国語を操った。もっとも主として俗語ではあったが、彼は明らかに諸国の変った町々や種々雑多の社会に生きて来た。実際彼の最も愉快な物語の中には地獄のような賭博場、阿片窟、オーストラリアの山賊など、しきりに出没した。師父ブラウンも、かつて名高かったこのサレーダインが最近の数年を旅から旅へと過しつつあるということだけは知っていたが、その旅がかほどに外聞の悪い、もしくはかほどに面白いものだったとはさすがに思いもよらなかった。
実際公爵は世の事情にたけた人としての品位はあるにはあっても、ブラウン坊さんのような感じの鋭敏な人の眼には、どうもそわそわした、一歩を進めて言えば信用の置けない調子のある人物として見えるのはしかたのない事である。なるほど彼の顔形はいかにもやかまし屋のようには見える。が、その眼光にはどうも荒《す》さんだところがある。彼は酒か薬品かで身体のふるえる人のような神経の傾きがちょ
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