彼等の対話は聴取《きと》ることが出来なかった。が、やがてミスター・ポウルの「何事もあなたにお任せします」という声がきこえた。サレーダイン公爵はあいかわらず手袋をパタパタとたたきながら、来客達に挨拶するために機嫌のよさそうな顔をして部屋の中にはいって来た。彼等はもう一度かの薄気味悪い光景を眼にした――五人の公爵が五つの扉《ドア》からはいって来たのを。
公爵は白い帽子と黄いろい手袋を卓子《テーブル》の上に置いて、すこぶる慇懃に手を差出した。
「これはようこそお越し下すった、フランボーさん」と彼が云った。「あなたの事はもうよう存じておりましてな――御令聞‥‥と申上げて失礼でございませんなら」
「いやその御心配には及びませんハハハハハハ」とフランボーは笑いながら答えた。「私は神経質ではないですから。しかし、とかく顕《あら》われんものは善徳ですよ」
公爵は相手のこの返報が、何か自分の事を云っているのではないかと思って、相手の顔をチラリとぬすみ見た。が、やがて自分も笑い出しながら、一同に椅子をすすめ、自分も腰かけた。
「ちょっと悪くない場所でな、ここは」と彼はくつろいだ調子で云った。「格別珍ら
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