うな気がしませんか」
 だがブラウンは首をふるばかりで唖者《おし》のように黙っていた。夕闇を通して山櫨《さんざし》の匂いと果樹園の匂いとが二人の鼻に迫った。で天気が風ばんで来た事をわかった。次の瞬間、風が小舟をゆるがせ、帆をふくらませた。そして二人は蜿々たる流れの下の方へ、幸福なる土地、善良なる人の子の住む村々の方へと運んで行った。



底本:「世界探偵小説全集 第九卷 ブラウン奇譚」平凡社
   1930(昭和5)年3月10日発行
※「旧字、旧仮名で書かれた作品を、現代表記にあらためる際の作業指針」に基づいて、底本の表記をあらためました。
その際、以下の置き換えをおこないました。
「或→あ・ある・あるい 相不変→あいかわらず 貴方・貴女→あなた 如何→いか 何れ→いずれ 何時→いつ 所謂→いわゆる 於て→おいて 於ける→おける 凡そ→およそ 且つ→かつ 曽て→かつて 斯程→かほど 位→くらい 斯→こ 此所→ここ 此方→こっち 此→この 是れ・是→これ 然・然し→しかし 暫く→しばらく 直ぐ→すぐ 頗る→すこぶる 即ち→すなわち 折角→せっかく 是非→ぜひ 其処→そこ 其→そ 沢山→たくさん 唯→ただ 但し→ただし 為→ため 段々→だんだん 丁度→ちょうど 一寸→ちょっと 附いて→ついて て居→てい・てお て呉→てく て見→てみ 何う→どう 兎角→とかく 何処→どこ 兎に角→とにかく 猶→なお 何故→なぜ 成程→なるほど 筈→はず 程→ほど 殆ど→ほとんど 亦・又→また 迄→まで 儘→まま 間もなく→まもなく 寧ろ→むしろ 若し→もし 若くは→もしくは 勿論→もちろん 尤も→もっとも 最早→もはや 矢っ張り→やっぱり 俺→わし 僅か→わずか」
※底本は、物を数える際や地名などに用いる「ヶ」(区点番号5−86)を、大振りにつくっています。
※底本中、「ステーフィン」「スティーフン」「ステフィーン」、あるいは「シシリー」「シシリア」「シシリヤ」の混在はそのままにしました。
※語句の説明に使われた括弧内の文章は、割り注になっています。
※底本は総ルビですが、一部を省きました。
入力:京都大学電子テクスト研究会入力班(逆凪紫)
校正:京都大学電子テクスト研究会校正班(大久保ゆう)
2004年6月2日作成
青空文庫作成ファイル:
このファイルは、インターネットの図書館、青空
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