を歪めて、恐怖の眼を剥出して、
「誰か、誰か――来て頂戴。」
と、絶叫した。ロボットは、徐々に、正確に、二人を、締めつけて行った。……………………………………………………………………、二人の骨が痛んだ。
「ああッ――痛い。」
夫人が、叫んだ。その刹那《せつな》、ロボットが、
「ベッドを汚《けが》したからだ。」
と、いった。それは、俊太郎に、よく似た声のように、二人には聞えた。そして、それと同時に、二人は、頭の底へ突刺すような、全身の骨の中までしみ透るような、激痛を感じた。二人は、悲鳴を上げた。
「ロボットの霊魂だ。」
と、ロボットが、答えた。二人の脚は、苦痛に、曲っていた。震えて、指は折れるように歪んでいた。顔は、真赤になって、眼球の中に血が滲んできていた。暫くすると、夫人の鼻穴から、血が流れ出して、眼が飛出すように、大きく剥いて、突出てきた。男も、微かに、呻《うめ》くだけになった。
人々が、馳《か》けつけた時、カーテンが微かに揺れているだけであった。召使は、
「奥さん。」
と、いったが、そのまま、遠慮して、暫く、二人で、眼を見合せていた。ぽとぽと液体の滴る音がした。そして、暫くすると、ゴトッと、機械の止まるような音がした。夫人の脚が、化粧し、彩色されたまま、色が変って、カーテンの下から垂れているのを見て、二人が、カーテンを開けた時、夫人は、眼からも、口からも、血を噴出していた。そして、ロボットは、二人の上にかぶさっていた。
[#地付き](「新青年」昭和六年三月号)
底本:「懐かしい未来――甦る明治・大正・昭和の未来小説」中央公論新社
2001(平成13)年6月10日初版発行
初出:「新青年」博文館
1931(昭和6)年3月号
入力:川山隆
校正:伊藤時也
2006年10月18日作成
青空文庫作成ファイル:
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