面に姓名、裏に戦死した年月日《ねんぐわつひ》と場所とが刻んであつた。
『分りましたかな』
一緒に探して呉《く》れた老爺《おやぢ》は私《わたし》の傍《そば》に遣《や》つて来た。
『お参りに来る人がそれでも随分あるだらうねえ?』かう私《わたし》が訊《き》くと、
『え、時には御座《ござ》いますがな。たんとはありません。皆《みん》な遠いで御座《ござ》いますから……。』
『お前さん、余程《よほど》前から、番人をして居《ゐ》るのかね?』
『お墓が出来た時からかうして番人を致して居《を》ります』
と爺《おやぢ》は言つて、『何《ど》うも一人で何《なに》も彼《か》も致すで、草がぢきに生《は》えて困りますばい。二三日鎌さ入れねえとかうでがんすばい』と、傍《そば》に青くなつた草を指《ゆびさ》した。
四月の十四日――父の命日には、年々床の間に父の名の入つた石摺《いしずり》の大きな幅《ふく》をかけて、机の上に位牌と御膳《おぜん》を据ゑて、お祭をした。其《その》頃いつも八重さくらが盛《さか》りで、兄はその爛※[#「火+曼」、第4水準2−80−1]《らんまん》たる花に山吹《やまぶき》を二枝《ふたえだ》ほど交《
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