込むには早いぜ!」
「少しは何か調べたか」
「なんだか顔色が悪いぜ!」
 熊谷にくると、こうした活気ある言葉をあっちこっちから浴びせかけられる。いきいきした友だちの顔色には中学校時代の面影がまだ残っていて、硝子窓《がらすまど》の下や運動場や湯呑場《ゆのみじょう》などで話し合った符牒《ふちょう》や言葉がたえず出る。
 また次のような話もした。
「Lはどうした」
「まだいる! そうかまだいるか」
「仙骨《せんこつ》は先生に熱中しているが、実におかしくって話にならん」
「先生、このごろ、鬚《ひげ》など生《は》やして、ステッキなどついて歩いているナ」
「杉はすっかり色男になったねえ、君」
 かたわらで聞いてはちょっとわからぬような話のしかたで、それでぐんぐん話はわかっていく。
 熊谷の町が行田、羽生にくらべてにぎやかでもあり、商業も盛んであると同じように、ここには同窓の友で小学校の教師などになるものはまれであった。角帯をしめて、老舗《しにせ》の若旦那になってしまうもののほかは、多くはほかの高等学校の入学試験の準備に忙しかった。活気は若い人々の上に満ちていた。これに引きくらべて、清三は自分の意気
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