やって来て、いい声で歌をうたったり、三絃《さみせん》をひいたりした。小畑《おばた》がそばにすわって「小滝は僕らの芸者だ。ナア小滝」などと言って、酔った顔をその前に押しつけるようにすると、「いやよ、小畑さん、貴郎《あなた》は昔から私をいじめるのねえ、覚えていてよ」と打つ真似《まね》をした。そのとき、「貴様は同級生の中で、誰が一番好きだ」という問題がゆくりなく出た。小学校時分の同級生がだいぶそのまわりにたかっていた。と、小滝は少しも躊躇《ちゅうちょ》の色を示《しめ》さずに、「それア誰だッてそうですわねえ、……むろん林さん!」と言った。小滝も酔っていた。喝采《かっさい》の声が嵐のように起こった。それからは、小畑や桜井や小島などに会うと、小滝の話がよく出る。しまいには「小滝君どうした。健在かね」などと書いた端書《はがき》を送ってよこした。「小滝」という渾名《あだな》をつけられてしまったのである。清三もまたおもしろ半分に、小滝を「しら滝」に改めて、それを別号にして、日記の上表紙に書いたり手紙に署《しょ》したりした。「歌妓《かぎ》しら滝の歌」という五七調四行五節の新体詩を作って、わざと小畑のところ
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