かど》を左に、それから少し行くと、向こうに大きな二階造りの建物と鞦韆《ぶらんこ》や木馬のある運動場が見えた。生徒の騒ぐ音がガヤガヤと聞こえた。
 校長の肥った顔、校長次席のむずかしい顔、体操の先生のにこにこした顔などが今もありありと眼に見える。卒業式に晴衣《はれぎ》を着飾ってくる女生徒の群れの中にもかれの好きな少女が三四人あった。紫の矢絣《やがすり》の衣服《きもの》に海老茶《えびちゃ》の袴《はかま》をはいてくる子が中でも一番眼に残っている。その子は町《まち》はずれの町から来た。農学校の校長の娘だということを聞いたことがある。清三が中学の一年にいる時一家は長野のほうに移転して行ってしまったので、そのあきらかな眸《ひとみ》を町のいずこにも見いだすことができなくなったが、それでも今も時々思い出すことがある。一人は芸者屋の娘で、今は小滝《こたき》といって、一昨年《おととし》一本になって、町でも流行妓《はやりっこ》のうちに数えられてある。通りで盛装《せいそう》した座敷姿《ざしきすがた》にでっくわすことなどあると、「失礼よ、林さん」などとあざやかに笑って挨拶して通って行く。中学卒業の祝いの宴会にも
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