蚕などをやって暮らしているものもある。金貸しなどをしているものもあった。
士族屋敷の中での金持ちの家が一軒路《いっけんみち》のほとりにあった。珊瑚樹《さんごじゅ》の垣は茂って、はっきりと中は見えないが、それでも白壁の土蔵と棟《むね》の高い家屋とはわかった。門から中を見ると、りっぱな玄関があって、小屋のそばに鶏《とり》が餌をひろっている。
二人はその垣に添って歩いた。
垣がつきると、水のみちた幅のせまい川が気持ちよく流れている。岸には楊《やなぎ》がその葉を水面にひたして漣《さざなみ》をつくっている。細い板橋が川の折《お》れ曲《ま》がったところにかかっている。
美穂子の家はそこから近かった。
「行ってみようか。北川は今日はいるだろう」
清三はこう言って友を誘った。
その家は大きな田舎道をへだててひろい野に向かっていた。古びた黒い門があった。やっぱり廂《ひさし》の低い藁葺《わらぶき》の家で、土台がいくらか曲がっている。庭には松だの、檜《ひのき》だの、椿だのが茂っていた。今年の一月から三月にかけて、若い人々はよくこの家に歌留多牌《うたがるた》をとりにきたものである。美穂子の姉の伊与
前へ
次へ
全349ページ中77ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
田山 花袋 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング