行田文学」の話も出れば山形古城の話も出る。そこに郁治の父親がおりよく昨日帰ってきていたとて出てきて、「林さん、どうです、……学校のほうはうまくいきますか」などと言った。
「あそこの学校は軋轢《あつれき》がなくっていいでしょう。校長は二十七年の卒業生だが、わりあいにあれで話がわかっている男でしてな……村の受けもいいです」
郡視学はこんなことを語って聞かせた。
雪子が茶をさしにきた時、袂《たもと》から絵葉書を出して、「浦和の美穂子《みほこ》さんから今、私のところにこんな手紙が来てよ」と二人に示した。美穂子はかの Art の君である。雪子はまだ兄の心の秘密を知らなかった。
絵葉書は女学世界についていた「初夏」という題で、新緑の陰にハイカラの女が細い流行の小傘《パラソール》をたずさえて立っていた。文句はべつに変わったこともなかった。
――雪子さんお変わりございませんか。ここに参ってからもう二月になりました。寄宿の生活――それはほかからは想像ができないくらいでございます、この春、ごいっしょに楽しく遊んだことなどをおりおり考えることが、ございますよ。ご無沙汰のおわびまでに……美穂子
清三
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