も、そういう消極的な考えには服従していられないねえ」
「じゃ、どんな境遇からでも、その人の考え一つで抜け出ることができるというんだねえ」
「そうさ」
「つまりそうすると、人間万能論だね、どんなことでもできないことはないという議論だね」
「君はじきそう極端に言うけれど、それはそこに取り除《の》けもあるがね」
その時いつもの単純な理想論が出る。積極的な考えと消極的な考えとがごたごたと混合して要領を得ずにおしまいになった。
かれらの群れは学校にいるころから、文学上の議論や人生上の議論などをよくした。新派の和歌や俳句や抒情文などを作って、互いに見せ合ったこともある。一人が仙骨《せんこつ》という号をつけると、みな骨という字を用いた号をつけようじゃないかという動議が出て、破骨《はこつ》だの、洒骨《しゃこつ》だの、露骨《ろこつ》だの、天骨《てんこつ》だの、古骨《ここつ》だのというおもしろい号ができて、しばらくの間は手紙をやるにも、話をするにも、みんなその骨の字の号を使った。古骨というのは、やはり郁治や清三と同じく三里の道を朝早く熊谷に通《かよ》った連中《れんちゅう》の一人だが、そのほんとうの号は
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