せはてた姿は、しずかに廊下をたどって行った。
教室にはいってみた。ボールドには、授業の最後の時間に数学を教えた数字がそのままになっている。[#ここから横書き]12+15=27[#ここで横書き終わり]と書いてある。チョークもその時置いたままになっている。ここで生徒を相手に笑ったり怒ったり不愉快に思ったりしたことを清三は思い出した。東京に行く友だちをうらやみ、人しれぬ失恋の苦しみにもだえた自分が、まるで他人でもあるかのようにはっきりと見える。色の白い、肉づきのいい、赤い長襦袢《ながじゅばん》を着た女も思い出された。
オルガンが講堂の一隅《かたすみ》に塵埃《ちり》に白くなって置かれてあった。何か久しぶりで鳴らしてみようと思ったが、ただ思っただけで、手をくだす気になれなかった。
やがて小使が帰って来た。かれもちょっと見ぬ間に、清三のいたく衰弱したのにびっくりした。
じろじろと不気味《ぶきみ》そうに見て、
「どうも病気《あんべい》がよくねえかね?」
「どうもいかんから、近いところに転任したいと思っているよ……今度の学期にはもう来られないかもしれない。長い間、おなじみになったが、どうもしか
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