して返事が来て、視学に直接に手紙をやれ、羽生の校長にも聞いてみろ、自分もそのうち出かけて運動してやると書いてあった。
 だんだん秋風が立ち始めた。大家《おおや》で飼《か》っておいたくさひばりが夕暮れになるといつもいい声を立てて鳴いた。床柱《とこばしら》の薔薇《ばら》の一|輪※[#「插」でつくりの縦棒が下に突き抜けている、第4水準2−13−28]《りんざ》し、それよりも簀戸《すど》をすかして見える朝顔の花が友禅染《ゆうぜんぞ》めのように美しかった。
 一日《あるひ》、午後四時ごろの暑い日影を受けて、例の街道を弥勒《みろく》に行く車があった。それには清三が乗っていた。月の俸給を受け取るためにわざわざ出かけて来たのであった。学校はがらんとして、小使もいなかった。関さんも、昨日浦和に行ったとて不在《るす》であった。
 宿直室にはなかば夕日がさしとおった。テニスをやるものもないとみえて、網もラッケットも縁側の隅にいたずらに束《たば》ねられてある。事務室の硯箱《すずりばこ》の蓋《ふた》には塵埃《ちり》が白く、椅子は卓《テーブル》の上に載せて片づけられたままになっている。影を長く校庭にひいた清三のや
前へ 次へ
全349ページ中326ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
田山 花袋 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング