二階の一間は新聞が飛ぶほど風が吹き通すこともあれば、裏の木の上に夕月が美しくかかって見えることもあった。けれど東がふさがっているので、朝日にはつねに縁遠く清三は暮らした。朝の眺《なが》めとしては、早起きをした時北窓の雲に朝日が燃えるようにてりはえるのを見るくらいなものであった。
 弥勒野《みろくの》はこのごろは草花がいつも盛りであった。清三は関さんに手紙を書いた。「このごろは座敷の運動のみにて、野に遠ざかり居り候へば、草花の盛りも見ず、遺憾《いかん》に候。弥勒野、才塚野《さいづかの》、君の採集にはさぞめづらしき花を加へたまひしならん。秋海棠《しゅうかいどう》今歳《ことし》は花少なく、朝顔もかはり種なく、さびしく暮らし居り候」
 毎日二三回ずつの下痢《げり》、胃はつねに激しき渇《かわ》きを覚えた。動かずにじっとしていれば、健康の人といくらも変わらぬほどに気分がよいが、労働すれば、すぐ疲れて力がなくなる。医師《いしゃ》は一週間目に大便の試験をしたが、十二指腸虫は一疋もいず、ベン虫の卵が一つあったばかりであった。けれどこれは寄生虫でないから害はない。ふつう健康体にもよくいる虫だと医師は
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