とて、校長は鶏卵《たまご》を十五個くれたが、それは実は病気見舞いのつもりであったらしい。教員たちは、「もうなんのかのと言っても旅順はじきに相違ないから、その時には休暇中でも、ぜひ学校に集まって、万歳を唱《とな》えることにしよう」などと言っていた。清三は八月の月給を月の二十一日にもらいたいということをあらかじめ校長に頼んで、馬車に乗ってかろうじて帰って来た。
 暑中休暇中には、どうしても快復させたいという考えで、清三は医師《いしゃ》を変えてみる気になった。こんどの医師は親切で評判な人であった。診察の結果では、どうもよくわからぬが、十二指腸かもしれないから、一週間ばかりたって大便の試験をしてみようと言った。肺病ではないかときくと、そういう兆候《ちょうこう》は今のところでは見えませんと言った。今のところという言葉を清三は気にした。

       五十六

 滋養《じよう》物を取らなければならぬので、銭《ぜに》もないのに、いろいろなものを買って食った。鯉《こい》、鮒《ふな》、鰻《うなぎ》、牛肉、鶏肉《けいにく》――ある時はごいさぎを売りに来たのを十五銭に負けさせて買った。嘴《くちばし》は浅緑
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