んの室《へや》で十時過ぎまで話して行くことなどもあった。

       五十一

 七月十五日の日記にかれはこう書いた。
「杜国《とこく》亡びてクルーゲル今また歿《ぼっ》す。瑞西《すいっつる》の山中に肺に斃《たお》れたるかれの遺体《いたい》は、故郷《ふるさと》のかれが妻の側に葬《ほうむ》らるべし。英雄の末路《ばつろ》、言は陳腐《ちんぷ》なれど、事実はつねに新たなり。英雄クルーゲル元トランスヴァール共和国大統領ホウル・クルーゲル歿す。歴史はつねにかくのごとし」

       五十二

 医師《いしゃ》はやっぱり胃腸だと言った。けれど薬はねっから効《こう》がなかった。咳《せき》がたえず出た。体がだるくってしかたがなかった。ことに、熱が時々出るのにいちばん困った。朝は病気が直ったと思うほどいつも気持ちがいいが、午後からはきっと熱が出る。やむなく発汗剤をのむと、汗がびっしょりと出て、その心持ちの悪いことひととおりでない。顔には血の気がなくなって、肌《はだ》がいやに黄《き》ばんで見える。かれはいく度も蒼白《あおじろ》い手を返して見た。
「お前ほんとうにどうかしたのじゃないかね。しっかりした医
前へ 次へ
全349ページ中313ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
田山 花袋 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング