!」
大家《おおや》はまた釣の話をして聞かせることがあった。清三が胃腸を悩んでいるとかいうのを聞いて、「どうです、一ついっしょに出かけてみませんか。そういう病気には、気が落ち着いてごくいいですがな」こんなことを言って誘った。その場所はここから一里ぐらい行ったところで、田のところどころに掘切《ほっきり》がある。そこには葦荻《ろてき》が人をかくすぐらいに深く生《お》い茂《しげ》っている。鮒《ふな》や鯉《こい》やたなごなどのたくさんいるのといないのとがある。そのいるところを大家さんはよく知っていた。
二人で話している縁側の上に、中老の品のいい細君《さいくん》は、岐阜提灯《ぎふぢょうちん》をつるしてくれた。
時には母親と荻生さんと三人つれだって町を歩くこともあった。今年は「から梅雨《つゆ》」で、雨が少なかった。六月の中ごろにすでに寒暖計が八十九度まであがったことがあった。七月にはいってから、にわかに暑さが激しく、田舎町の夜には、縁台を店先に出して、白地の浴衣《ゆかた》をくっきりと闇に見せて、団扇《うちわ》をバタバタさせている群れがそこにもここにも見えた。母親は買い物をする町の店に熟してい
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