が取れそうなものですがなア」とさももどかしそうに主人は言って、「それにもう、陸軍のほうもよほど行ったんでしょう。第一軍は九|連城《れんじょう》を取ってから、ねっから進まんじゃありませんか。第二軍は蓋平《がいへい》からもうよほど行ったんですか」
 清三は新聞や雑誌で、得た知識で、第一軍第二軍が近いうちに連絡して遼陽《りょうよう》のクロパトキン将軍の本営に迫る話をして聞かした。旅順の方面については、海陸ともにひしひしと押し寄せて、敵はもう袋の鼠《ねずみ》になってしまったから、こっちのほうは遼陽よりも早く片づくはずである。「来月の十五日ぐらいまでにはきっと取れるッて校長なども言うんです。私はいま少し遅くなるかもしれないと思いますけれど、なにしろもうじきですな」などと清三は言って聞かせた。
「なにしろ、日本は小さいけれども、挙国一致《きょこくいっち》ですからかないませんやな。どんな百姓でも、無知な人間でも、戦争ッていえば一生懸命ですからな……天子様も国民の後援があって、さぞ御《み》心丈夫でいらっしゃるでしょう」と感嘆したような調子で言って、「日本は昔からお武士《さむらい》でできた国ですからなア
前へ 次へ
全349ページ中310ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
田山 花袋 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング