の小畑もやがて疲れて熟睡《じゅくすい》してしまった。清三は眼がさめて、どうしても眠られない。戸外にはサッと降って通る雨の音が聞こえる。いろいろな感があとからあとから胸をついてきて、胸がいっぱいになる。こうしたやさしい友もある世の中に長く生きたいという思いがみなぎりわたったが、それとともに、涙がその蒼白《あおじろ》い頬をほろほろと伝って流れた。中田の女のことも続いて思い出された。長い土手を夕日を帯びてたどって行く自分の姿がまるでほかの人であるかのようにあざやかに見えた。涙が寝衣《ねまき》の袖《そで》で拭いても拭いても出た。
翌朝《あくるあさ》、小畑は言った。
「昨夜《ゆうべ》、君はあれからまた起きたね」
「どうも眠られなくってしかたがないから、起きて新聞を読んだ」
「何かごそごそ音がするから、目をあいてみると、君はランプのそばで起きている。君の顔が白くはっきりときわだっていたのが今でも見える」こう言って清三の顔を見て、「夜、寝られないかえ?」
「どうも寝られんで困る」
「やはり神経衰弱だねえ」
土曜日は半日授業があった。荻生さんは朝早く雨をついて帰った。小畑は校長や清三の授業ぶりを参
前へ
次へ
全349ページ中285ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
田山 花袋 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング