と明日《あす》朝早く帰るはずの荻生さんは困ったような声を立てた。
「明日《あした》は土曜、明後日《あさって》は日曜だ。行田には今週は帰らんつもりだから、雨は降ったッてかまいやしない。君も、明日《あした》一日遊んで行くサ。めったに三人こうしていっしょになることはありゃしない」と清三はこう荻生さんに言ったが、戸外にようやく音を立て始めた点滴《てんてき》を聞いて、「愉快だなア! こうしたわれわれの会合の背景が雨になったのはじつに愉快だ。今夜はしめやかに昔を語れッて、天が雨を降らしてくれたようなものだ!」
 興《きょう》が大《おお》いに起こって来たというふうである。小畑の胸にもかれの胸にも中学校時代のことがむらむらと思い出された。清三は帰りがおそくなるといつもこうして一枚の蒲団《ふとん》の中にはいって、熊谷の小畑の書斎に泊まるのがつねであった。顔と顔とを合わせて、眠くなってどっちか一方「うんうん」と受け身になるまで話をするのが例であった。
「あのころが思い出されるねえ」
 と小畑は寝ながら言った。
 荻生さんが一番先に鼾声《いびき》をたてた。「もう、寝ちゃった! 早いなア」と小畑が言った。そ
前へ 次へ
全349ページ中284ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
田山 花袋 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング