毒ですな。ずいぶんさびしい生活ですものなア。それにまじめな性分《しょうぶん》だけ、いっそうつらいでしょうから」
「私みたいにのんきだといいんですけれど……」
「ほんとうに、君とは違いますね」
 と和尚さんは笑った。

       三十九

 清三の借金はなかなか多かった。この二月ばかり、自炊をする元気もなく、三度々々小川屋から弁当を運ばせたので、その勘定《かんじょう》は七八円までにのぼった。酒屋に三円、菓子屋に三円、荒物屋に五円、前からそのままにしてある米屋に三円、そのほか同僚から一円二円と借りたものもすくなくなかった。荻生さんにも四円ほど借りたままになっていた。
 中田に通うころに和尚さんに融通《ゆうずう》してもらった二円も返さなかった。
 金の価値の貴《とうと》い田舎《いなか》では、何よりも先にこれから信用がくずれて行った。

       四十

 ところがどうした動機か、清三は急にまじめになった。もちろん校長からこんこんと説かれたこともあった。和尚さんからもそれとなく忠告された。けれどもそのためばかりではなかった。
 頭が急に新しくなったような気がした。自己のふまじめであった
前へ 次へ
全349ページ中259ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
田山 花袋 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング