なくってはならないというほどのこともない。老訓導にも校長にも今日と明日は留守《るす》になるということを言っておいた。懐《ふところ》には昨日おりたばかりの半月の月給がはいっている。いい機会だ! と思った心は、ある新しい希望に向かってそぞろにふるえた。
土手にのぼると、利根川は美しく夕日にはえていた。その心がある希望のために動いているためであろう。なんだかその波の閃《きら》めきも色の調子も空気のこい影もすべて自分のおどりがちな心としっくり相合っているように感じられた。なかばはらんだ帆が夕日を受けてゆるやかにゆるやかに下《くだ》って行くと、ようようとした大河《たいか》の趣《おもむき》をなした川の上には初秋《はつあき》でなければ見られぬような白い大きな雲が浮かんで、川向こうの人家や白壁の土蔵や森や土手がこい空気の中に浮くように見える。土手の草むらの中にはキリギリスが鳴いていた。
土手にはところどころ松原があったり渡船小屋《わたしごや》があったり楢林《ならばやし》があったり藁葺《わらぶき》の百姓家が見えたりした。渡し船にはここらによく見る機回《はたまわ》りの車が二台、自転車が一個《ひとつ》、
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