残っているものは、学校にいるころもそう懇意《こんい》にしていなかった人々ばかりだ。清三もつまらぬから、どこか旅でもしてみようかと思った。けれど母親の苦しい家計を見かねて五円渡してしまったので、財布にはもういくらも残っていない。近所の山にも行かれそうにもない。で、月の二十日には、どうせ狭い暑い家《うち》に寝てるよりは学校の風通しのよい宿直室のほうがいいと思って、弥勒《みろく》へと帰って来た。途中で、久しぶりで成願寺に寄ってみると、和尚《おしょう》さんは昼寝をしていた。
 風通しのよい十畳で話した。和尚さんはビールなどを出してチヤホヤした。ふと、そこに廂髪《ひさしがみ》に結《ゆ》って、紫色の銘仙《めいせん》の矢絣《やがすり》を着て、白足袋をはいた十六ぐらいの美しい色の白い娘が出て来た。
 帰りに荻生さんに会って聞くと、
「あれは、君、和尚さんの姪《めい》だよ。夏休みに東京から来てるんだよ。どうも、田舎《いなか》の土臭い中に育った娘とは違うねえ。どこかハイカラのところがあるねえ」
 こう言って笑った。荻生さんはいぜんとしてもとの荻生さんで、町の菓子屋から餅菓子を買って来てご馳走した。郵便事務
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