棚も見える。
 前の広庭には高い物干し竿が幾列《いくなら》びにも順序よく並んでいて、朝から紺糸《こんいと》がずらりとそこに干しつらねられる。糸を繰《く》る座繰《ざぐ》りの音が驟雨《しゅうう》のようにあっちこっちからにぎやかに聞こえる。
 機屋のまわりには、賃機《ちんばた》を織る音が盛《さか》んにした。
 あたりの村落のしんとしているのに引きかえて、ここには活気が充ちていた。金持ちも多かった。他郷からはいって来た若い男女もずいぶんあった。
 発戸《ほっと》は風儀の悪い村と近所から言われている。埼玉新報の三面|種《だね》にもきっとこの村のことが毎月一つや二つは出る。機屋《はたや》の亭主が女工を片端《かたはし》から姦《かん》して牢屋《ろうや》に入れられた話もあれば、利根川に臨《のぞ》んだ崖《がけ》から、越後《えちご》の女と上州《じょうしゅう》の男とが情死《しんじゅう》をしたことなどもある。街道に接して、だるま屋も二三軒はあった。
 八月が来ると、盛んな盆踊《ぼんおど》りが毎晩そこで開かれた。学校に宿直していると、その踊る音が手にとるように講堂の硝子《がらす》にひびいてはっきりと聞こえる。十一
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