た。荻生さんは手に取って、ジッと見入って、「君もなかなか器用ですねえ」と感心した。清三はこのごろ集めた譜のついた新しい歌曲をオルガンに合わせてひいてみせた。
 冬はいよいよ寒くなった。昼の雨は夜の霙《みぞれ》となって、あくれば校庭は一面の雪、早く来た生徒は雪達磨《ゆきだるま》をこしらえたり雪合戦《ゆきがっせん》をしたりしてさわいでいる。美しく晴れた軒には雀がやかましく百囀《ももさえずり》をしている。雪の来たあとの道路は泥濘《でいねい》が連日|乾《かわ》かず、高い足駄《あしだ》もどうかすると埋まって取られてしまうことなどもある。乗合馬車は屋根の被《おお》いまではねを上げて通った。
 机の前の障子《しょうじ》にさし残る冬の日影は少なくとも清三の心を沈静させた。なるようにしかならんという状態から、やがて「自己のつくすだけをつくしていさぎよく運命に従おう」という心の状態になった。嘆息《ためいき》と涙とのあとに、静かなさびしいしかし甘い安静が来た。霙《みぞれ》の降る夜半《よわ》に、「夜は寒みあられたばしる音しきりさゆる寝覚《ねざ》めを(母いかならん)」と歌って家の母の情《なさけ》を思ったり、「さ
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