た。西風が毎日のように関東平野の小さな町に吹きあれた。乾物屋《かんぶつや》の店には数の子が山のように積まれ、肴屋《さかなや》には鮭が板台《はんだい》の上にいくつとなく並べられた。旧暦《きゅうれき》で正月をするのがこの近在の習慣なので、町はいつもに変わらずしんとして、赤い腰巻をした田舎娘も見えなかった。郡役所と警察署と小学校とそれにおもだった富豪《かねもち》などの注連飾《しめかざ》りがただ目に立った。
 六畳には炬燵《こたつ》がしてあった。清三は多くそこに日を暮らした。雑誌を読んだり、小説を読んだり、時には心理学をひもといてみることなどもあった。そばでは母親が賃仕事《ちんしごと》のあい間を見て清三の綿衣《わたいれ》を縫っていた。午後にはどうかすると町へ行って餅菓子を買って来て茶をいれてくれることなどもある。一夜《あるよ》凩《こがらし》が吹き荒れて、雨に交って霙《みぞれ》が降った。父と母と清三とは炬燵《こたつ》を取りまいて戸外《おもて》に荒るるすさまじい冬の音を聞いていたが、こうした時に起こりかけた一家の財政の話が愚痴《ぐち》っぽい母親の口から出て、借金の多いことがいく度となくくり返された
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