さめておらなかった。卒業の喜び、初めて世に出ずる希望――その花やかな影はたちまち消えて、秋は来た、さびしい秋は来た。裏の林に熟《う》み割れた栗のいがが見えて、晴れた夜は野分がそこからさびしく立った。長い廊下の縁は足の裏に冷やかに、本堂のそばの高い梧桐《あおぎり》からは雨滴《あまだ》れが泣くように落ちた。
二十
男生徒女生徒|打《う》ち混ぜて三十名ばかり、田の間の細い路《みち》をぞろぞろと通る。学校を出る時は、「亀よ亀さんよ」をいっせいにうたってきたが、それにもあきて、今ではてんでに勝手な真似《まね》をして歩いた。何かべちゃべちゃしゃべっている女生徒もあれば、後ろをふり返って赤目《あかんべ》をしてみせている男生徒もある。赤いマンマという花をつまんで列におくれるものもあれば、蜻蛉《とんぼ》を追いかけて畑の中にはいって行くものもある。尋常二年級と三年級、九歳から十歳までのいたずら盛り、総じて無邪気に甘えるような挙動を、清三は自己の物思いの慰藉《いしゃ》としてつねにかわいがったので、「先生――林先生」と生徒は顔を見てよくそのあとを追った。
学校から村を抜けて、発戸《ほっと
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