の光線が斜《なな》めに林にさし透《とお》って、向こうに広い野の空がそれとのぞかれた。雨の日には、梢《こずえ》から雨滴《あまだ》れがボタボタ落ちて、苔蘚《こけ》の生えた坊主の頭顱《あたま》のような墓石《はか》は泣くように見られた。ここの和尚さんもやがてはこの中にはいるのだなどと清三は考えた。肥った背の高いかみさんと田舎《いなか》の寺に埋めておくのは惜しいような学問のある和尚さんとが、こうした淋しい平凡な生活を送っているのも、考えると不思議なような気がする。ふと、二三日前のことを思い出して、かれは微笑した。かれは日記に軽い調子で、
「夕方知らずして、主《しゅ》の坊が Wife とともに湯の小さきに親しみて(?)入れるを見て、突然のことに気の毒にもまた面喰《めんくら》はされつ」と書いたのを思い出した。湯殿は庫裡《くり》の入り口からはいられるようになっていた。和尚さんは二月ばかり前に、葬儀に用いる棒や板などのたくさん本堂にあったのを利用して大工を雇って来て、そこに格好の湯殿を作って、丸い風呂を据えて湯を立てた。煙《けむり》が勝手から庫裡までなびいた。その日は火をもらおうと思って、茶の間へ行って
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