ろしい病気にかかって、夏休みがすんで、学校に来たくッても来られないようになります。よく遊び、よく学び、よく勉めよ。本にもそう書いてありましょう。九月の初めに、ここで先生といっしょになる時には、誰が一番先生の言うことをよく守ったか、それを先生は今から見ております」こう言って、清三は生徒に別れの礼をさせた。お下げに結《ゆ》った女生徒と鼻を垂《た》らした男生徒とがぞろぞろと下駄箱のほうに先を争って出て行った、いずれの教室にも同じような言葉がくり返される。女教員は菫《すみれ》色の袴《はかま》をはっきりと廊下に見せて、一二、一二をやりながら、そこまで来て解散した。校庭には九|連草《れんそう》の赤いのが日に照らされて咲いていた。紫陽花《あじさい》の花もあった。

       十八

 暑中休暇はいたずらに過ぎた。自己の才能に対する新しい試みもみごとに失敗した。思いは燃えても筆はこれに伴《ともな》わなかった。五日ののちにはかれは断念して筆を捨てた。
 寺にいてもおもしろくない。行田に帰っても、狭い家は暑く不愉快である。それに、美穂子が帰っているだけそれだけ、そこにいるのが苦痛であった。かれは一人で
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