ないので、不思議に思って、清三が本堂の障子をあけてみると、白い羅紗《らしゃ》の背広にイタリアンストロウの夏帽子をかぶった肥《ふと》った男と白がかった夏|外套《がいとう》をはおった背の高い男とが庫裡の入り口に車をつけて、今しもおりようとするところであった。やがて小僧がとり次ぐと、和尚さんの姿がそこに出て来た。久濶《きゅうかつ》の友に訪われた喜びが、声やら言葉やら態度やらにあらわれて見えた。
 やがてその客は東京から来た知名の文学者で、一人は原杏花《はらきょうか》、一人は相原健二《あいはらけんじ》という有名な「太陽」の記者だということがわかった。いずれも主僧が東京にいたころの友だちである。
 清三の室《へや》は中庭の庭樹《ていじゅ》を隔てて、庫裡の座敷に対していたので、客と主僧との談話《はな》しているさまがあきらかに見えた。緑の葉の間に白い羅紗《らしゃ》の夏服がちらちらしたり、おりおり声高《こわだか》く快活に笑う声がしたりする。その洋服や笑い声は若い青年にとってこの上もない羨望の種であった。
「原っていう人はあんな肥った人かねえ。あれであんなやさしいことを書くとは思わなかった」
 郁治はこ
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