ふことであつた。
 不圖窕子はある事を耳にした。
『それはほんと?』
『ほんたうでございます』
 何處からか聞いて來た呉葉は、かう言つてあとを殘した。
『でも登子の君がそのやうなところにゐるといふのは?』
『ですから、この身も何うかと思つて始めは本當にしなかつたのでございますが……やつぱりまことでございます。何でも、一時、身を忍ばせてゐらるゝのださうでございます……』
『でも、西の邸と言へば、すぐそこぢやないか。それに、あそこは大殿がおかくれになつてから、草が茫々と生えたまゝにしてあるといふぢやないか。それなのに……』
兼家や中宮の妹で、御門にさへ思はれてゐる登子の君が、そのやうな廢屋に來てゐようとは窕子には容易に信じられなかつた。
『でも本當でございます』
『お前、誰に聞いた?』
『さつき、下のものが何かこそこそと話しては、大事でもあるやうに致してをりますから、何うしたのかと思つてきいたのでございます。さうしたら、末の君だつて申すぢやございませんか。それも内所にして置かなければいけないので……それで――』
 呉葉は聲を落した。
 つい今から一月ほど前、式部卿の宮の突然の死は、京の人達
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