るが、まだ狹くて、流れも小さくて、とても歌枕に詠まれたやうな大河ではないなどと詳しく書いてよこしたりしたが、二年目からは、それよりも猶ほ五日路も六日路も奧に入つて、武隈の府から多賀の府の方へと出かけて行つたらしく、その消息さへ容易に手にすることは出來なくなつて了つたのであつた。
かの女はたまさかに來るその手紙を唯一の戀人か何ぞのやうにして待つた。またその來た手紙は、何遍も何遍も出して來ては讀むので皺にされたり汚れたりするのであつたが、しかしそれを丁寧に疊んで、一つ一つ來た日をかきつけて、貝の蒔繪の文箱の中に重ねて藏つて置いた。此頃では何うしてかことにその父親のあたりが戀ひしかつた。何故あの時無理にでもそのあとについて歌枕を見に行かなかつたかと思つた。かの女の眼には、その父親が遠く遠く薄を分けて蝦夷の地近くまで入つて行くさまがはつきりと見えた。武隈の二木松などもそれと見えた。父親の手紙にはいろいろなことが書いてある。この多賀の府からは歌枕の千松島はもはやさして遠くない。今までは用事が忙しいので行つて見ることが出來ずにゐるが、秋にもなつなら、是非とも暇をこしらへて行つて見るつもりだ……な
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