こで現をぬかして遊んでゐるといふのを聞いて、家の男の子につれて行つて貰つて、そつとその闇の中に俄かに蜃氣樓か何かのやうにあらはれて來る賑かなさまを覗いたのであつた。成ほど男達が坊の小路、坊の小路と言つてそれを大騷ぎするのは無理もない、女の身で見てさへこのやうに面白いのだものとその時窕子は思つたことをくり返した。
で、男はそこで女を相手に終夜遊び散すらしいのだが、女房達の局の内や、琴、笛の夜の會などとはまた違つて、碎けた、氣の置けない、のんきな歡樂のそこにあるらしいのが窕子にもわかつた。窕子はそこを通る時、面がほてつて爲方がなかつたことを思ひ起した。じろじろと見られたゞけで、別にわる口らしい放言は浴びせかけられなかつたけれども、何うして女の身でこんなところまで入つて來たらうと後悔したことを思ひ起した。ことに、暗い一室に、結び燈臺も細々としかともつてゐない一室に、二人の男女が身を寄せ合うて打伏すやうにしてゐたさまが、今でもはつきりと眼の前に浮んで來た。窕子はいくらか心が焦立つて來た。
『あなたには、あそこでも、もう、ちやんときまつた方があるのでせう?』
『ありはせぬよ』
兼家の笑顏は却
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