ございます』
『それはしかしもつともだらうな。惚れた身になれば、三年はおろか一年でも半年でも逢はずにゐては、その仲が疎うなるのが心[#「心」は底本では「必」]配になるだらうからな……。三年離れてゐて猶思うてゐるといふことは男にも女にもむつかしいことぢや。それは妻ならば別ぢやが……』
『男子には出來ぬかも知れませんが、女には――』
 傍から窕子がだしぬけに言つた。
 堀川の殿は驚いたやうにしてそつちを見たが、笑つて、
『女子には出來るといふのか?』
『その女子の心持もよくわかるではござりませんか?』
『それはようわかる……。氣の毒ぢや。しかし攝津介、戀といふものはさういふものではない。三年も逢はずにゐては、どのやうに思ひ合ふたものでも、たよりなう思ふのは當り前ぢやな……。それも雁の便りでも出來ればぢやが、みちのくでは、便りらしい便りも取りかはすことは難かしいでな……』
『さやうでございます』
『それで、關までついて行くのか。まア關までは他について行くものもあらうから、女でも行けるには行けようが、それから先はとてもむつかしいな……』
『行けるところまで行くと申してをりました……』
『美しい
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