世離れたさびしい庵が映つた。ついそこが竹の縁になつてゐて、その向うに筧から清水のちよろちよろと落ちてゐるのが繪卷の中の一つの光景であるやうに見えた。そしてその向うは少しの場所が畠になつてゐて、もはやかなりに丈が高くなつてゐるもろこしが風にガサガサと動いてゐた。庵の中央には大きな厨子があつて、そこに二尺五寸ほどの釋迦如來の木像が据ゑられてあつた。香爐だの、香皿だの卷物だのが一面にその前の經机の上に置かれてあるのを窕子は見た。
 道綱は挨拶がすむかすみもしないのに、逸早くそこを飛び出して、『遠くに行くんではありませんよ』と言ふのをも耳に入れずに、そのまゝ向うの草原の中へと入つて行つた。
『生中ひとつでも松蟲を取つたもんですから……』
『まア、さやうでございますか。松蟲や鈴蟲なら、此處にも澤山をりますほどに、あとでいくらでも取つてさし上げてもよろしうございます……』
 かうした山の中の庵室にまでも、かの女と道綱とが、東三條殿で名高くなつてゐるといふことは、一面不思議な心持を窕子に誘つた。都にゐれば、さういふ風に他から取扱はれるといふことは、一種の屈辱を感ずることであつたけれど――ことに殿の女
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