…』
窕子は別にこゝに思ひを殘してゐるわけではなかつた。あるじの僧のことにしても、逢つたり話したりしてゐることの上には多少の興味を感じてゐるけれども、さうかと言つて、こゝに深く心を留めてゐるわけでも何でもなかつた。たとへそれがもつと深く、此方からも心を寄せ、向うからも進んで出て來たにしても、それは何うにもなる間柄ではなく、やつぱり山を出た雲は山に歸り、流れ落ちる谷川は里に向つて出て行かなければならないのだつた。窕子は自分の身の何うにもならないことを今更のやうに感じた。
かをるがそこにやつて來た。百合の花を三本も四本も手に持つてるた。
『まア、好い花! 何處で採つて來ましたの』
『ぢき向うの山――』
かをるは振返つて指した。
『よく、こんなのがありましたね……。まだあるなら、私、採りに行かうかしら?』
『まだ、あるにはありますけども……女の手ではちよつとむりかも知れませんね。長能が取つて呉れたんですの……』
『まア、兄さんが?』
窕子は羨しさうに。
『この下の谷でございますか?』
呉葉は問うた。
『この谷をずつと下まで下りて行つたところです……。とても、私には行けないといふのを
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