んなことをBが言ふと、
「左様で御座いますか。……」かう夫人は言つて顔を赧《あか》くして、「それでも、役には立ちますので御座いますよ……。今日も午前に万寿山《まんじゆやま》で、あそこの乞食をこれが退撃《たいげき》して呉れましてね。大変に助かりました――」
「そんなに乞食が多う御座んすか?」
「え、え、あそこは――。汚ない恰好《かつかう》をして近くへ寄つて来るので御座いますもの――」
「あゝいふ時には、かういふ奴は役に立ちますよ」
「さうでせうな……」かう言つたBはすぐ言葉を続いで、「それで、まだお立ちにはならないのですか?」
「いや、もう行かなければならないのですけれども、丁度、今、節《せつ》がわるくて、馬車が御座いませんものですから……」
「此方《こちら》からいつでも馬車を仕立てゝ行けるのではないんですか?」
「北京にゐる奴《やつ》は、何うも行くのをいやがりましてな。何しろ遠いんですから。向うから来てゐる奴《もの》でないと、何うしても行かうとは言はないんです?」
「それは大変ですな……。それにしても、その赤峰といふところまで一体幾日かゝるんです?」
「さうですな……。路がわるいですか
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